意識する暇もない踊り【共感する身体】
この記事のまとめ
共感は、意識するまえに、起こります。
共感の「身体性」
言葉は、まず相手の情動に合わせて「身体が」調律されていなくては相手に伝わりにくい。ずっと同じペースで、自分のペースで話していては、共感されることはない。言葉を信じてもらうことはできない、というお話。
同じように人間の共感にも生理的な下敷きがある、とカリフォルニア大学バークレー校の心理 学者ロバート・レヴェンソンが提唱している。レヴェンソンは何組かの夫婦に白熱した議論をさ せ、その最中に相手が何を感じていたかを推測させる実験をおこなった。方法は簡単だ。夫婦に 結婚生活上の問題点――子供のしつけ、お金の使い方、等々――を議論させてその様子をビデオ に録画し、同時に生理的反応を記録する。つぎに夫と妻それぞれに録画したビデオを見せ、時々 刻々と移り変わる場面についてそのとき自分が何を感じていたか語ってもらう。そして、もう一 度ビデオを見せながら、今度はそれぞれの場面で相手が何を感じているかを読みとってもらう。
この実験で相手の感情を最も正確に読みとることができたのは、ビデオ画面に映っている配偶 者の生理的変化につられるように自分も同じ生理的反応を示した夫(または妻)だった。つまり、画面のパートナーの発汗が上昇した場面ではそれを見ている夫(妻)の発汗反応も上昇し、 パートナーの心拍数が下がった場面ではそれを見ている夫(妻)の心拍数も下がる。この人たち の肉体は、画面に映ったパートナーの刻々と変化していく微妙な生理反応を模倣していたのだ。 反対に、ビデオ上のパートナーの気持ちを推測しているあいだも最初にビデオ撮影をしたときと 同じ生理的反応しか示さなかった人は、パートナーの感情を推測するのが非常に下手だった。肉体の波長が合っているときしか共感は起こらないのだ。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.167)
自分が自分の情動に流されていたら、相手に伝えることはできない。電話で喋りたい気持ちでいっぱいだと、相手が「そろそろ話やめたいんだけどなー」と思っていても気がつかない。
この実験結果から、情動の脳が強い反応で肉体を駆りたてているとき(たとえば怒りでカンカ ンになっているとき)には共感などほとんど起こりえない、と考えることができる。他人に共感 するには、その人が出す微妙な感情のサインを情動の脳で受けとめて模倣できるだけの平静さと受容性が必要なのだ。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.167)
非言語要素で共感している
共感は勝手に起きるもの。こうした体の敏感性をHSCの子は持っているかもしれない。相手に合わせるのがしんどくなるのは、無意識のレベルで相手の「心に気づいてしまって」いて心がそれに耐えられないからかもしれない。
社会心理学の研究によって、二人のあいだに自然な動作の一致―タイミングが同じ、テンポが同じ、などが多ければ多いほど肯定的な気分が強まることがあきらかになってきている。友人どう しの二人が話をしている場面を声が聞こえない程度に離れた距離から見てみると、この非言語的要素 がいっそうはっきりとわかる。二人の動作はみごとに調和し、交互に話す側と聞く側を入れ替わり、 視線まで同じ方向を向いているはずだ。演技の指導者は、映画を最初から最後まで音消しで見るよう 学生を指導する。そうすることによって、非言語的要素が学べるからだ。
科学のレンズを通して見ると、人間の目ではわからないことまで見えてくる。たとえば、ラポール が確立している二人の場合、片方が話しているあいだ、もう一方が相手を補うような息遣いになる。 会話中の二人に呼吸パターンを測定するセンサーをつけて観察したところ、片方が息を吸うともう一 方が息を吐く、あるいは片方が息を吸うときにもう一方も息を吸う、という形で聞き手が話し手の息 遣いを反映する傾向が見られた。 呼吸の同調傾向は、聞き手と話し手が交代するタイミングが近づくにつれて強くなる。また、親し い友人たちは話をしながらよく笑うが、そういうときには同調傾向がさらに強まる。二人はほとんど 同時に笑いはじめ、笑っているあいだの呼吸のリズムはぴったり揃っている。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.53)
相手の姿勢を模倣する、心を模倣する、「この人は今、どんな気持ちをしているんだろう」と、心は勝手に、反応するものだということらしい。心を開いているだけで、心は動き出す。
人が人に笑いかけるとき、人は幸せを共有していることになりそうだ。
チベットのことわざにあるように、「人生に微笑むとき、微笑みの半分は自 分の顔のため、残りの半分はだれかの顔のため」なのである。 (『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.73)
意識に上らない速さ
無意識にタイミングを合わせ動作を同調させる作業は、ごく単純な動作であっても、ジャズの即興 演奏であっても、複雑さに変わりはない。同調が会釈のような単純動作に限られるものだとしても不 思議はないところだが、実際には、同調はもっと複雑なレベルでもおこなわれている。
わたしたちの動作が噛みあういろいろな場面を考えてみよう。二人の人間が会話に没頭していると き、その動作は話のペースや内容とぴったり合っている。話しこむ二人を一コマ一コマ分析してみる と、各人の動きがいかに会話のリズムを作っているか、頭や手の動きが強調する箇所や言いよどむ箇 所といかに合致しているか、がわかるだろう。 驚くべきことに、そうした身体と言葉の同調は一秒の何分の一というタイミングで起こる。それは本人が意識的に考えても追跡しきれないほど複雑な働きだ。身体は脳の操り人形であり、脳の時計は 千分の一秒単位、あるいはもっと速い百万分の一秒単位で進む。それに対して、人間の意識的な情報 処理や思考のスピードは秒単位だ。
にもかかわらず、本人の意識の外で、身体は相手の微妙なパターンに同調して動く。視界のすみに 相手の姿が少しはいっているだけでも、相手に波長を合わせ、無言のうちに動作を同調させることが できる。だれかと並んで歩いているときがそうだ。歩きはじめて数分のうちに、別々に動いていた振 り子が同調するように、二人の手足は同じリズムで動きはじめる。
オシレーターは、脳の神経が『不思議の国のアリス』に登場する「踊る? 踊らない?踊る? 踊らない? いっしょに踊らない?」という歌を歌っているようなものだ。恋人どうしが自然に近づ いて抱きあうとき、あるいは道を歩き出してどちらからともなく自然に手をつなぎあうとき、オシレ ーターが働いて無意識に動作を同調させている(ちなみに、わたしの友人の女性は、デートで一緒に 歩いて歩調が合わない相手とはたいていうまくいかない、と言う)。
どのような場面であれ、脳の中ではきわめて複雑な計算がおこなわれ、オシレーターが次から次へ とタイミングを調節して同調を維持している。こうした細かい同調作業によって、人間は相手の現実 にほんの一部ではあるが参加する形となり、そこから共感が生まれる。わたしたちが脳と脳との同調 関係にたやすくはいっていけるのは、生まれて以来ずっとそういうことを練習してきているからでもある。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.58)
言葉を伝えるために心をひらく
教師は、大人は、相手に合わせることをする。しかし、教師であれば、集団であれば、多数が相手だし、一方的に喋る時間が長くなるから・・・感情を出す子に合わせてクラスを運営してしまう。感情を出さない子には、、、うーん。そこに合わせると、、、バランス感覚。あ、これは独り言です。
教師と生徒の同調性は、両者のあいだにどの程度のラポールが存在するかを表わす。学校の教 室で観察した結果によると、教師と生徒の動きに同調性が高いほど、両者のあいだに友好的で、 楽しく、熱心で、意欲的で、心を開いた交流があった。一般的に、同調性のレベルが高いほど 「気が合っている」といえる。この研究をおこなったオレゴン州立大学のフランク・ベルニエリ は、次のように話してくれた。「だれかと一緒にいて気まずく感じるか気楽に感じるかは、ある 程度生理的なものです。おたがいが気楽でいられるためにはタイミングが合わなくてはならない し、動きも調和していなくてはならない。同調性は、人間同士の関わりの深さを反映するもので す。関わりが深ければ、明るい気分にしろ暗い気分にしろ、二人の気分がかみあうわけです」。(『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン p.182)
息が合う二人と眼窩前頭皮質と紡錘細胞【キスってどうやってするの?】
この記事のまとめ
キスは、人間の神秘。
ただただ、人間の「命」の神秘を感じました。
そのカップルは、初めてキスしたときのことを鮮明におぼえているという。二人の関係が決定的に 変わった瞬間だった。
何年も前から親友だった二人は、ある日の午後、会ってお茶を飲んだ。おしゃべりが進むうちに、 ぴったりのパートナーを見つけるのはほんとうに難しい、という話題になった。そのとき、一瞬の沈 黙があって二人は目を見あわせ、一秒か二秒じっと見つめあった。
そのあと、店の外で別れの言葉を交わしているとき、ふたたび互いの目を見つめあう瞬間が訪れた。 そして、だしぬけに、何か不思議な力に操られたような感じで、二人はくちびるを重ねた。 「どちらも自分からキスを求めたとは思っていないのだが、いまだに、何かに押されてロマンチック な行為に及んだという感覚だけはしっかりおぼえているという。
見つめあった時間がキスへのプレリュードだったのかもしれない。まるで詩人の言葉のようだが、 神経科学の世界でも「目は心の窓」に似た考えが裏づけられるようになってきている。目はその人の 最も内奥にある感情を垣間見せてくれる。もっと具体的に説明するならば、目には、受けとめた情報を脳の中でも共感にかかわる中心部分、すなわち前頭前野の眼窩前頭皮質に直接投射する神経もある。
見つめあう行為は、二人を心の回路で結びつける。ロマンチックな瞬間を神経学の解剖台に載せて 恐縮だが、目と目で見つめあったとき、二人の眼窩前頭皮質は連結されたのである。この部分はアイ コンタクトのように目を合わせて発する合図をとくに敏感に受けとめ、他者の心の状態を認識する重 大な役割をはたしている。
不動産と同じで、脳の中もロケーションが重要だ。眼窩前頭皮質は眼窩のすぐ後ろ上方にあり、感 じる脳のいちばん上の部分と考える脳のいちばん下の部分が接する重要な位置を占めている。握りこ ぶしを下に向けて脳に見立てたとすると、大ざっぱに指のあたりが皮質、手のひらの下のあたりが皮 質下、指先が手のひらに接するあたりが眼窩前頭皮質に相当する。 眼窩前頭皮質は、「思考する脳」と呼ばれる皮質、「感じる脳」としてさまざまな情動反応にかかわ る扁桃体、自動的な反応をつかさどる「爬虫類の脳」である脳幹、という三つの主要な部分を神経で 直接結びつけている。この緊密な結びつきによって、思考・感情・行動の迅速かつ強力な連係が可能 になっていると考えられる。いわば、神経の高速道路が、感情の見張役から「裏の道」経由で届く情 報、身体・知覚情報、そして情報に意味を与える「表の道」の解釈、の三要素をたばねて、行為の指 針を示すわけだ。
眼窩前頭皮質は脳の皮質と皮質下が出会う重要な位置を占め、周囲の状況を解釈する中枢機能をは たしている。眼前頭皮質は内的経験と外的経験を統合して即座に計算を実行し、いま一緒にいる人 物について自分はどう感じているか、彼女はこちらをどう感じているか、彼女の出方に応じて次にどの んな対応をすればいいか、などを指示する。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.102)
眼窩前頭皮質の場所は・・・眉毛の奥?もちろん、というか新皮質の前頭葉に含まれています。
紡錘体と「裏の道」のスピード
重要なのは、紡錘細胞の形だ。細胞体の部分が他の脳神経細胞の約四倍も大きく、太くて長い枝が 伸びていて、そこから樹状突起や軸索が出ている。信号出力を担う腕が長ければ、情報伝達速度は大 きくなる。紡錘細胞の巨大なサイズが超スピードの情報伝達を可能にしているわけだ。
紡錘細胞は、眼窩前頭皮質と前帯状皮質(大脳辺縁系のいちばん上の部分)を緊密に結んでいる。 前帯状皮質は、注意の方向を決め、思考と情動と身体反応を統合する役割をはたしている。この結び つきによってある種の神経司令センターが形成され、ここから紡錘細胞が脳内のさまざまな部分へ軸 索を伸ばしている。(略)
神経解剖学者の中には、ヒトと他の動物との決定的な違いを作り出しているのは紡錘細胞ではない か、と考える人もいる。生物学的にヒトに最も近い類人猿の脳には数百の紡錘細胞しかないが、ヒト の脳にはその約一○○○倍の紡錘細胞がある。他の哺乳動物の脳には紡錘細胞はないようだ。同じ人間(あるいは霊長類)でも社会的に敏感な人とそうでない人がいるのは紡錘細胞が関係しているので はないか、とする説もある。脳内の活動状況を画像処理してみると、人間関係によく気のきく人― 社会的状況を正確に読みとれるだけでなく、同じ状況に置かれた他者がどのような見方をするかまで わかる人は前帯状皮質が活発に働いていることがわかった。
紡錘細胞は眼窩前頭皮質の一部分に密集しており、他者に対する情動反応(とくに瞬時の共感)が 起きているときに活性化する。たとえば、母親が子供の泣き声を聞いたとき、あるいは愛する人の苦 しみを感じたとき、脳スキャンの画像ではその部分が明るくなる。また、何かを強く感じているとき にも、この部分が活発に働く。たとえば、愛する人の写真を見ているとき、だれかを魅力的だと感じ ているとき、自分は裏切られているのだろうかと疑っているとき、などだ。
紡錘細胞が多く見られるもうひとつの場所は前部帯状回の一部で、ここも社会生活にかかわる重要 な役割を担っている。この部分は情動を顔に表わしたり他者の表情を読みとったりする働きを指示し、 強い情動を抱いたときに活性化する。また、この部分は情動を喚起したり情動に起因する判断を最初 に下す扁桃体とも密接につながっている。 「裏の道」の情報伝達が速いのは、これらの超高速ニューロンがかかわっていることも一因であると 思われる。たとえば初対面の人と顔を合わせたとき、その人を好きになるか嫌いになるかの判断は最 初の三分の一秒で始まる。前部帯状回の主要部分が即座に働きだすからだ。このようにして、知覚し た情報を本人が言語化するより早く、それに対する好き嫌いが決まってしまう。「それ」が何なのか はっきり理解するより千分の何秒か先に「裏の道」のほうが「好き」「嫌い」の判断をつけてしまう 理由は、紡錘細胞という存在によって説明できるかもしれない。(『SQ 生きかたの知能指数』ダニエル ゴールマン p.106)
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