【心のバネ】4ヶ月の赤ちゃんの願いと達成感『発達の扉(上)』
3ヶ月の赤ちゃんの願いと悩み
外界への意志
左右上下の追視「対象を追いかける意志」
対象を発見し、目で追うか、手を伸ばすか。
ガラガラ:音に反応し、見ようとするか、手を伸ばそうとするか。
この時期の子供は聴覚が優位。聴覚刺激で関心を高めつつ、目で確かめようとする。そうした「間」を大切に。
ハンカチテスト(抵抗を加えた時の反応):子どもと向き合い呼名して視線を合わせてから、顔にゆっくりとハンカチをかける。躯幹・四肢・手指が協応して外界の能動的に働きかけようとするか。
活動が「途切れる」ことがあっても「つなげる」反応がみられるか。
発達の「悩み」
向き癖が強い(反射の影響にとらわれて思うように姿勢を変えられない)。
向き癖を乗り越えて自由にならない姿勢を克服していくエネルギー(能動性)の源は、お母さんの笑顔。
自分で脅威があるものを取りに行けない。近づけない。(イライラした顔になる!)
欲しそうにしているガラガラをあげると、喜んでもっと動かそうとする。
4ヶ月:生後第一の新しい発達の原動力「人しりそめしほほえみ」
(1)人に訴えかける表情をする。人として認識して意図して笑いかける(あやされて笑うのではあく、自分から笑いかけ、大人に働きかけるようになる)。「人しりそめしほほえみ」(「生後第一の新しい発達の原動力」→6ヶ月へ)
(2)自由になってきた手で、能動的に世界と関わろうとする。
(3)対追視:正中線上で2つの積み木を打ち鳴らしてから左右に移動した二つの積み木を見つけられるか。(二つを見比べる力)
一つの積み木を目で追ったあと、積み木を打ち鳴らした試験者の顔を見てからもう一つの積み木を発見しても良い。
見比べの力の意味は、四か月ごろの子どもたちでも、確かめられます。たとえばお昼ごはんの時間に、離乳食を食べさせてもらっている友だちと保母さんを見比べるようにして、自分にも食べさせてほしい、とでもいいたげなまなざしと発声を向けてくる子どもがいるはずです。見比べの力が、二人のつくりだしている場面をとらえ、自分にもしてほしいという参加の意欲を生んでいるのです。それは、単なる見比べではなく、二人のつながりをとらえる力といってもよいのではないでしょうか。
こんな小さいときから、友だちの存在が子どもにとって意味をもっているのです。それ は、乳児期の早い時期から、「集団」がたいせつであることを教えてくれる姿です。(白石正久『子どものねがい・子どものなやみ』p.30)
心のバネ:生後4ヶ月の赤ちゃんの達成感
子どもたちは、まだ手が使えない生後2か月ころから、正面の心高ま るものに手を近づけようとする矛盾に満ちた姿を示してくれます。そし て、おかあさんの顔や音のするガラガラを自分の目でとらえようとして、 頸を一生懸命動かそうともしてくれます。しかし、この段階で、「手で 取る」、あるいは「姿勢を変化させる」ということが子どものなかに意 識されているわけではありません。それが、はっきりした意思となるの は、生後4か月ころを迎えてからです。そして、手でものをつかもうと し、寝返りに挑戦し、腹這いでも手掌で支えて高く頸を挙げようとする ことでしょう。しっかり目標のものを手にすることができたとき、はじ めて寝返りをすることができたときはとてもうれしそうです。うれしい 心が子どもの表情をつくれるようになってきます。
子どもは、こうやって達成感とよぶべき心のはたらきを積み重ねてい くことができるのでしょう。それが「心のバネ」となり、もっと一生懸 命手を出そうとし、一生懸命寝返りにも挑戦しようとするようになるの です。写真17を見てください。右手に握った積木をいったんは口に近づ けますが、もう一方の手がその積木に近づいてきて、取ろうとしていま す。しかし、まだ右手はじょうずに積木を放すことなどできるはずがあ りません。そのときの思い通りにならない心のイライラが表情によく現 れています。そして、やっと左手が取ることのできたときの安堵感。今 の達成感を「心のバネ」にして、今度は右手が挑戦します。やはり、受 け取ることができたうれしい心が表情に現れます。両手を合わせてあそ ぶことは、生後3か月ころ、対称的な仰向け姿勢をとれるようになった ころからできるようになっていました。その準備運動のなかで、子ども はふたつの手を知っていったのでしょう。この持ちかえへの挑戦は、や がて7か月ころの発達の質的転換を達成していくときにいよいよ拡大 し、たいせつな意味をもつようになります。(白石正久『発達の扉(上)』p.54)
【もうひとつへの欲張り】4ヶ月の子どもがみせる「ひと」の姿
この写真を見るなかで、もうひとつ気づくことがあります。この子は 左の犬のぬいぐるみを選んで手にしただけではありません。欲張りにも、 もうひとつの熊のぬいぐるみにも手を出そうとしています。オランウータンやチンパンジーの発達研究をされている竹下秀子さんによると、このようなひとつのものの選択ともうひとつへの欲張りが同時にみられる のは人間に固有の特徴だそうです(「子どもの発達と環境教育』、高橋哲 郎・竹下秀子・八木英二・吉田一郎、京都・法政出版、1993年)。この 発達の飛躍の時期における「もうひとつへの欲張りさ」こそ、人間の発 達を特徴づけるたいせつな行動なのでしょう。この「欲張りさ」のなかに、人間の発達のエネルギーの高さが秘められているのでしょう。
この段階では、手はまだひとつのものしかつかむことができません。 だから、もうひとつのものに手をのばしたとき、今持っているものは、 自然に手から放れてしまいます。しかし、この「もうひとつへの欲張り さ」があるから、やがて、もうひとつの手にも持つことができるように なるのです。そして、ひとつのもので満足しない「もうひとつへの欲張 りさ」があるから、「もうひとつ」にとどまらず、次々新しいものに魅 力を感じて、手を伸ばしていく探索の世界が発展していくのでしょう。 そうやって、子どもにとっての外界は飛躍的に広がっていくのです。
こうやって語るなかで、私は障害をもっている子どもたちに、この見 比べと「もうひとつへの欲張りさ」がとても見られにくいことに気がつ きました。これからの発達のためのエネルギーがやはり、十分高まって いないのです。もう一度この見比べと「もうひとつへの欲張りさ」の段 階にいたるまでの発達の道すじを確かめて、必要な土台づくりをしてあ げたいものです。(白石正久『発達の扉(上)』p.62)
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